蔵王権現像は銅鏡の表面に神仏の像を表し、これを礼拝したもので、御正体ともよばれています。三葉形の鋳銅板に光焔頭光(こうえんずこう)を負っている像は、三目の忿怒相(ふんぬそう)で左手を腰に、右手には古式の三鈷(さんこ)を高くかかげて片足を上げて立っています。その左側には十三尊、右側には十九尊の計三十二躰の眷属(けんぞく)を配した図像が繊細な毛彫で表されています。
残念ながら下部を破損しているため当初の姿を知ることはできませんが、礼拝するために下部に脚をつけ、台上に取りつけていたものと考えられます。背面には種々の梵字が線刻であらわされていて、左脇「長保三年辛丑四月十日辛亥内匠寮史生壬生...(以下欠失)...」の銘から、制作は長保三年(1001)であることがわかります。
蔵王権現像と眷属の描写は生動感にあふれ、線刻は流麗で白描仏画を思わせる趣があり、平安時代11世紀初頭の仏画の基準作例としても貴重なものとなっています。