錫杖(しゃくじょう)の功徳
修行大師像(当山)
比丘(びく)十八物(※1)の一つで、修行僧が野山を巡業する時、猛禽や毒虫などの害から逃れるため、これをゆすって音を立てながら歩いた。錫杖は常に浄手(右手)に持ち不浄手(左手)に持つことを禁止されている。街に入ってからは、家々の門前にて乞食(こつじき)するときにこれをゆすって来意を知らせた。この歩きながら使うものを錫杖、また法要中に法具として使う短いものを手錫杖といい、その音色により『錫(すず)』の字があてられた。
巡錫に用いられる錫杖は、ほぼ等身で、杖頭部・木柄部・石突の部分に分かれる。杖頭部は仏像や五輪塔を安置し大環に小環を6個あるいは12個付ける。法要で用いる錫杖は、柄を短くしたものであるが、杖頭部が三股九環・四股十二環のものもある。当山では、錫杖は修行大師像に見られ、手錫杖は護摩祈願の中で使われている。
錫杖は『錫杖経』に説かれるように厄災や魔を祓う法具である。仏像に於いては、千手観音・不空羂索観音・地蔵菩薩の持物として錫杖を見ることができる。また総本山長谷寺の本尊十一面観世音菩薩様の右手に錫杖が握られており、衆生救済の色を濃くしている。通常十一面観音様の右手は垂下(すいげ)して数珠を持つだけであることから、本山の観音様は長谷型観音と呼ばれている。
錫杖経に曰く
『當願衆生(とうがんしゅじょう) 十方一切(じっぽういっさい) 地獄餓鬼畜生(じごくがきちくしょう) 八難之處(はつなんししょ) 受苦衆生(じゅくしゅじょう) 聞錫杖聲(もんしゃくじょうしょう)
速得解脱(そくとくげだつ) 惑癡二障(わくちじしょう) 百八煩悩(ひゃくはちぼんのう) 發菩提心(ほつぼだいしん) 具修萬行(ぐしゅうまんぎょう) 速證菩提(そくしょうぼだい)』
錫杖は、その清らかな錫の音であらゆる衆生の厄災を祓い、悟りへと導きます。
※1 比丘十八物 昔、大乗仏教の修行僧が常に身に着けていた十八種の品
※2 惑障 人を惑わすあらゆる状況
※3 癡障 悟りに対する無知の心
※4 菩提心 悟りを求める心